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2019/07/03

Koichi Moriizumi

『森泉宏一の実況天国』Vol.15

『森泉宏一の実況天国』Vol.15

私の師匠は野村達也さん。
元々は声優などをされていたのですけれども。
私が入る1年前にボートレース多摩川で実況を始め、当時は浜松オートレース場などでも実況をされていました。
また、その野村さんの先輩である平山信一さんも同じ事務所に在籍。
そして、当時、東京にある3つのレース場では日本モーターボート競走会の職員の方々が実況をされており、そこから僕らのような外部業者への移行が少しずつ進んでいる時期でもありました。
職員の実況アナウンサーの中にはゴン太さん、ノッポさん、アグレッシブさん、ヤッターマンさん……などなど、珍妙な!?異名を持つ方々がたくさんおられました。
初めてこれらの二つ名を聞いた時は正直なところポカンと、するしかありませんでした。
はい、ボートレースやアナウンスから全く連想できない名前ばかりだったので、由来を聞くまでは何のことやら???という状態。
ちなみにヤッターマンさんはご察しの方も多いと思いますが、レース中に「ヤッター!」というフレーズを頻繁に入れることから。
アグレッシブさんには直接、お会いしたことがありませんが、ヤッターマンさんと同様、レース中に「アグレッシブなレースが展開されています」などと、入れていたことが由来。
また、アグレッシブ以外の横文字も入れることを好むアナウンサーだったそうです。

当時、研修場所となった多摩川にはゴン太さん、ヤッターマンさんが在籍されていました。そのお二方に加え、師匠の野村さんや平山さんに加えて、私も入り、多い日は1日12レースを4人で回す日もありました。

研修初日。
まずは先輩方が実際に実況をされているところを見学させていただきました。
「実況席やスタジオはどんな感じなんだろう」
そんなことを考えながら、実況席へ入ると、想像していた風景とは全く違う光景が。
部屋には同じ服装をした男性と女性の職員らしき方々が数名……どうやらここは審判室のようだ。
「なるほど、まずは関係者の皆さんにご挨拶だな。そりゃ、そうだ」

師匠に連れられて、審判のみなさんへの挨拶を済ませ、審判室を出るのかと思いきや師匠はそのまま水面が見える窓際の方へ。
「あれ……この人どこに行くんだろう?」
立ち止まって様子を見ていると、師匠は手招きして私を呼ぶ。
そして一言。
師「ここが実況席だよ」
森「?!!!」
師「練習して良ければ、ここでも研修するから」

森「(あれ?ここ審判室だよな?何故ここに実況席が!?)」
森「(レースの審判をする部屋なのに。実況席を作る部屋がなくて、仕方なくここに作ったのか?)」
森「(いや、そんな訳はない。でも、ほら、アナウンサーといえばスタジオがあってさぁ。スポーツ中継だと中継ブースがあるじゃない。ここは審判の人と同じ場所で実況!?)」

僅か数秒の間に、森泉青年の頭の中は激しく混乱したもの。
そうなのです、ボートレースは他の競技と違い、実況席が審判室にあるのです。
転覆や落水などの失格放送。
その他にもフライングが発生した時の欠場放送などをレース中に入れるため、実況アナウンサーは審判の一員でもあるのです。

森「(そう言えば、レースを観ていると、レース中に実況が「失格」って言っていたな。どうして失格って分かるんだろう?ADさんがカンペでも出してくれるのかな?)」

事実を知るまではそんなことを考えていました(苦笑)。

多摩川の場合は実況席の両サイドに審判長と副審判長。
そして、中央審判や信号関係の審判が横一列に並ぶようになっていました。
(レース場によってはこの並びが違ったり、二段になったりしているそうです)

スタジオがあって、それとは別に実況ブースがあって、そこで一人喋りをするんだろうなと、想像していたので。
いきなり先制パンチ(しかもかなり強烈な)を食らったような心境になりながらも研修が始まりました。

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