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2018/06/13

Norikazu Iwai

おもてなし

おもてなし

賞金王5度、永久シード権を持つプロゴルファーの片山晋呉が窮地(きゅうち)に立たされている。窮地と言うべきか、日本ゴルフツアー機構から確実に懲戒処分を受けそうだ。
事の発端は5月30日、森ビル杯のプロアマ戦においてゲストに不快な思いをさせたのが規律違反に当たるという。そのゲストというのがスポンサー筋の人間だった。大会を開催するに大小こそあるが、3億から5億円がかかるのが相場と言われている。そのほとんどはスポンサー料でまかなわれる。だから、大会前にゲストと一緒にプレーするという“おもてなし”をすることがゴルフ界では慣例になっている。普通は一緒にラウンドできないトッププロと回ることができるプロアマ戦はゲストにとっては夢物語だろう。しかし、今回、片山プロはゲストそっちのけの対応をしたことが問題視されている。

この“おもてなし”を競輪界に置き換えてみた。おもてなし=ファンサービスということになるのだろう。選手と触れ合える場として真っ先に頭に浮かんだのが、ガールズケイリンの“お見送り”である。全ての競輪場で実施している訳ではないが、全レース終了後、ガールズ選手の何人かが帰途につくファンを見送る。開門前には“地元選手によるお出迎え”なるものを多くの競輪場で行っている。だが、果たしてこれが“おもてなし”と言えるだろうか?
特にガールズの場合、翌日の番組(対戦カード)が発表されているのに外部と接触できてしまう。これで公正と言えるのかは正直、理解に苦しむ。ましてやガールズの場合はレースで勝負になる選手は7人中3人がいいところだろう。極論ではあるが、7着だった選手がファンを見送る……車券を獲れなかったファンの気持ちを考えれば、そんな選手のお見送りは神経を逆なでしている感覚に近いのではないか?“お出迎え”も超一流選手が門の前に立ち、1人、1人と握手するとか、写真撮影に応じるなら“おもてなし”と言えるのだろうが。

ボートレースの場合、ビッグレースの時には開会式で参加選手がファンの前で挨拶する。歌を唄う選手もいれば、ギャグを連発する選手もいる。その度にファンは盛り上がり、プレゼントを渡す頃合いとしてはベストなタイミングとなる。ファンにしてみれば、憧れの選手と間近に接することができる至福の時間なのだ。これぞ“おもてなし”だろう。時間的な制約があるかも知れないが、競輪界でもきっとできるはずだ。
出入り、出待ちのファンに対する対応も大切な“おもてなし”だ。もう5年以上前の話になるが、サインを求めて長蛇の列を作るファン全員に、村上義弘(京都73期)が2時間近くかけてサインをしていたと、知人の記者から聞かされた。レースが終わり心身共に疲弊(ひへい)しているにも関わらずである。“神対応”と言ってしまえば簡単なことだが、これをできる選手はそうはいない。

片山プロの件に関して詳細はまだ分からないが、少なくともファン無視の態度だったことはテレビや新聞などの報道からも分かる。プロ野球でも各球団、ファンサービスに力をいれているけれども、競輪界はどうだろう?タレントを呼んでのイベント、子供が喜ぶキャラクターショーをやるのもいいだろう。だが、コアな競輪ファンには興味のないことだ。ファン層に合わせたサービスを重点に置いて実施すべきであろう。筆者が思うに、今の競輪界はただイベントを行ったという実績だけを重視しているのではないか。もっとハッキリ言ってしまえば、自己満足のファンサービスが多いと感じてしまう。
スポーツ界を取り巻く環境は年々、厳しくなっている。一昔前ならば黙っていても野球なら球場が満員になっていたし、競輪場も同様だった。しかし、時代は変わった。ファンが求めているものが何か?それが分からない業界は衰退の一途をたどっても致し方ないことだろう。ゴルフの一件を競輪関係者が我が身に置き換えて、アクションを起こしてくれることを期待している。

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