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2022/10/29

岩井範一

新田祐大のグランドスラム

新田祐大のグランドスラム

9日に引退を発表した村上義弘さんの「引退セレモニー」が10月22日に、京都・向日町競輪場で行われた。当日は現地に約900人のファンが駆けつけたというから、村上さんの人気の高さが伺える。セレモニーはネットでも中継され、現地に足を運べなかったファンも見入ったことだろう。挨拶では燃え尽きた、悔いはないと語り、サプライズゲストとして松本整さんが登場すると、思わず涙ぐんだそうだ。セレモニーまでされると引退という二文字が現実なんだなと改めて思い、感慨に耽った。

翌23日はG1寛仁親王牌・世界選手権記念トーナメントの決勝。セレモニーを22日にしたのも、村上さんらいしい配慮だったのかもしれない。
寛仁親王牌は新田祐大が優勝し、史上4人目のG1グランドスラムを達成した。東京五輪が終わってからは、本業の競輪で精彩を欠いていたが、底力を見せつけた。
決勝メンバーは古性優作に稲川翔の大阪勢。関東勢は吉田拓矢に平原康多。新田には同県の小松崎大地、3番手に守澤太志。そして松浦悠士に井上昌己。
ポイントは先行不在(筆者の思いだが)の中、誰が逃げるかだった。吉田は、もう平原を引っ張る競走をするのではなく、自らが勝ちにいく競走をすると思っていたし、新田もさすがに逃げはないだろうと予測した。消去法で残るは、古性と松浦。ただ、後ろがライン違いの井上では松浦は逃げない。こういう場面で男気を見せるのは、古性だと確信していた。後ろの稲川とは競輪だけでなくBMX時代からの先輩ということもあったからだ。
レースは予測通り大阪勢が先行。3番手に吉田で松浦が中団。新田は内に封じ込められ、最悪の位置。吉田は絶好のポジションを奪いながら、道中で脚を使ったためか、捲りに行っても車が出ない。松浦もひと息。稲川の牽制もうまかったが、稲川には自らもっと早く前に踏んでもらいたい思いもあった。新田、小松崎との連結が外れた守澤が大外をものすごい勢いで伸び、初タイトルかと思われたが、新田が3コーナー、4コーナーとイン捲りで応酬。一歩間違えれば失格まである流れだったが、それでも新田は躊躇(ち
ゅうちょ)なく踏んだ。

審議のランプが灯り、新田が対象になった。結果は、セーフ。インタビューでは、新田が泣いていた。
自らが自転車競技のチームを立ち上げるなど、競輪以外でも業界の発展に貢献してきた。脇本雄太との力と力の勝負を演じられるのは新田しかいないと思っている。大敗もあるが、それでも豪快な走りはファンを魅了してきた。今開催の筆者は、優勝候補は新田だと初日から思っており、3連単を的中することができた。ちなみに、新田の頭以外で1着を買ったのは稲川だったので、途中まで稲川優勝の夢も見られた。
まだ新田が制していないのは、KEIRINグランプリ。グランドスラマーとして、そこで頂点に立ってこそだと思っている。

Text/Norikazu Iwai

Photo/Perfecta navi編集部

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