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2017/11/10

Norikazu Iwai

競輪祭に全てを懸ける、成田和也

競輪祭に全てを懸ける、成田和也

成田和也(福島88期)は真面目で礼儀正しい好青年だ。四十路も近い大人、特別競輪での優勝4度を誇る成田を青年扱いしては失礼かも知れないが、筆者が受ける印象はとにかく好青年なのである。今、その成田が2013年立川以来のKEIRINグランプリ出場へ向け、正念場を迎えている。賞金ランクはG1寛仁親王牌を終えた時点で10位。

本人からは「賞金ランクでグランプリに出ようなんて考えていません。グランプリはタイトルを獲って出るものですから」という言葉が返ってきた。確かに賞金では難しい面がある。それはライバルたちが1円でも多くと、G3(記念競輪)を走っているのに、成田の斡旋を見るとG1寛仁親王牌の後はF1京王閣。これはまだ良いとしても、次がなんと単発の平塚G3最終日の企画レースS級ブロックセブン(結果は4着だった)で、1走のみとは言え、優勝賞金は60万円程度のものである。

F1斡旋は仕方ないとも思うが、最高峰のグランプリ出場争いを繰り広げている成田に、企画レースはないだろうと思ってしまう。公平な斡旋があっての力勝負ならば、どんな結果になっても納得はするが……。ただ、成田は既述のように、泣き言ひとつ漏らさない。あくまでも競輪祭で決着を付ける!その覚悟に変わりがないからだ。実に潔く、男気が溢れる成田らしい。
2014年からここまでは“いばらの道”が続いた。鎖骨、肋骨骨折、復帰したら再び落車で骨折。これが数回続き、悪いことに骨折箇所は同じ。完治していないのにレースに出ては、同じところを痛める繰り返し。一時期、弱気になって「もう大舞台には立てないかも知れない」と、親しい記者に苦しい心情を吐露したこともあったらしい。それでも不屈の闘志であきらめることなく、グランプリが狙えるところまで戻ってきたのだ。
成田の持ち味はキレ、特に直線でのキレは天下一品だ。派手さはないが、まさしく玄人好みの走りを見せてくれる。わずかな隙間を縫って突っ込む姿に、ファンは興奮する。新田祐大(福島90期)、同期の渡邉一成(福島88期)、山崎芳仁(福島88期)ら、自力大国の福島にあって、佐藤慎太郎(福島78期)と共に、追い込み選手としてのキャリアを積み重ねてきた。

「成田さんが後ろなら安心です」と、先行選手が口を揃える。要するに成田が2番手を回ってくれたら、迷うことなく先行できるということだ。捲ってくる選手がいればブロック、直線に入っても最後までかばってくれる。
「自分のために先行してくれているんだから、かばうのは当然ですよ」
マーク屋としては当然だが、口だけで終わってしまう選手もいるだけに成田は人望も厚い。
優勝してグランプリ、競輪祭に全てが懸かっている。また、成田の本意ではないかも知れないが、結果的に賞金ランクでの出場だってあるかも知れない。

映画や演劇で例えるならば、成田は失礼ながら主役ではない。しかし、時には脇役が主役を超え、高評価を受けることだってある。
40年程前の話しで恐縮だが、『ディア・ハンター』という戦争シーンを描くことなく、戦争を描いた映画(ベトナム戦争帰還兵の葛藤や友情)があった。主演はロバート・デ・ニーロで、第51回アカデミー作賞品に輝いたが、デ・ニーロは主演男優賞を逃した。だが、クリストファー・ウォーケンは助演男優賞を受賞。
要するに、この映画では主演のデ・ニーロの脇を固めたウォーケンが存在感を示していた。それと、現在の競輪界における成田の姿と重なってしまう。だからこそ、個人的な想いは百も承知で、成田にはどうしてもグランプリには出てもらいたい。いや、出てもらいたいではなく、グランプリに必要な選手であることは間違いないと信じているから。

Text/Norikazu Iwai Photo/Joe Shimajiri

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