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2017/12/15

Norikazu Iwai

更生へのルール作り

更生へのルール作り

連日の報道で詳細を述べる必要はないだろうが、相撲界の事件が世間をにぎわせている。
暴行問題の責任を問われたことで第70代横綱・日馬富士は引退表明。元横綱となってから10日以上が経ち、傷害容疑で書類送検となった。しかし、騒動の収拾にはまだ程遠い状況で、今後も世間の耳目を集めることになるだろう。
そして、この事件の注目度には及ばないが、1998年の長野冬季五輪ショートトラック500m銅メダリストである植松仁が逮捕されたというニュースが飛び込んできた。容疑は電車内で女性の足に体液をかけたわいせつ事件である。
植松は銅メダル獲得後の2000年に日本競輪学校に入学。『自転車競技以外で、五輪や世界選手権でメダルを獲得するか入賞した選手』を対象にした特別選抜試験で入学した第1号である。これについて詳しいライターによれば「本当はスピードスケートの清水宏保を呼びたくて作った制度。結局、清水は4年後のソルトレーク五輪に出るため、競輪界にはこなかった」ということらしい。
当時の植松は仕事先から解雇され、ギリギリの生活を送っていたようで、スピードスケートと自転車は共通点が多いことから競輪への転向を考えたと、聞いている。
現役競輪選手の犯罪事件も残念なことに、これまでにいくつも起こっているのが現実だ。
飲酒運転の結果、死亡事故を引き起こすという事件が法的には最も重罪。その他には俗に言う淫行が多く、女子校の合宿先に侵入、路上で強姦まがいのことをして捕まった選手もいた。ただ、不思議なのは逮捕された選手全員が引退していないことだ。実刑判決を受けたら引退らしいが、そうでない場合は現役を続行しても問題ないという。もちろん、色々な制約はあるだろうが、基本的には実刑かどうかが判断ポイントになっている。
しかし、これは世間一般的には実に不可解な話し。犯罪を犯した以上は自ら身を引くくらいの覚悟が必要(冒頭で述べた日馬富士は最終的に自ら身を引いている)という概念が根本にあるから。ただ、競輪選手は自ら身を引かない限りは個人事業主ゆえに雇用関係がないので、関係団体からは解雇できない。そう、業界自体のシステムが煩雑(はんざつ)すぎる。あるサラリーマンが飲酒運転での死亡事故、痴漢行為、淫行、盗撮などで逮捕された場合、ほぼ間違いなく会社から解雇されるという一般常識とは明らかに異なっている世界であるからだ。

プロ野球界では野球賭博問題に関与した高木京介投手が1年の選手失格期間を経たうえで、球界復帰が認められ、改めて巨人と契約(育成選手契約)した。だが、支配下登録されることもなく自由契約(後に育成選手として再契約)というように更生への道のりは険しい。
バドミントン界に目を移すと、桃田賢斗選手が違法カジノ店での賭博行為が発覚して、出場だけでなくメダル獲得も有力視されていたリオデジャネイロ五輪の代表から外された。そして、日本バドミントン協会からも社内的にも厳しい処分を受け、1年1ヶ月後に実戦復帰。国際大会で5連続優勝などの戦績も残しているけれども、賭博行為発覚前の世界ランキング2位には遠く及ばない48位と、今後が楽観視できる現況ではない。
しかし、罪を犯した人間、法を破った人間はそれなりの制裁を受けて当然。ましてやこれまでと同じ職業に留まって、罪を償っていく道を選択した十字架は重たくなる。植松だって一般人だったら、これほど大きなニュースにはならなかったに違いない。五輪のメダリスト、元競輪選手という意味で、公人だったからこそニュースになった。しかし、あらゆる制裁を受ける愚行を犯したことは事実で、これから先も罪を償い続けなければいけない身なのだからやむを得ないだろう。
最後にこういった類いの話しが出る度に思うのだが、競輪界は前述したように個人事業主なので、一般的な組織とは違って、管理責任の所在が曖昧なところが多い。だから、悪い言い方になってしまうけれども、罪を犯した人間がいつの間にか復帰している節がある。ここは競輪界において、こういうケース(もちろん、ないに越したことはない)での制度を一からシッカリ見直す必要があるのではなかろうか。

Text/Norikazu Iwai

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