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2018/01/22

Norikazu Iwai

ドーピング

ドーピング

人間の欲望というものは計り知れない。時として悪魔に魂を売ることもある。カヌー競技で薬物混入が発覚した。カヌーと言えば2016年リオデジャネイロ五輪のスラローム男子カナディアンシングルで羽根田卓也選手が銅メダルに輝き、一躍、スポット浴びた競技だ。今回の主人公はもちろん、羽根田選手ではない。
事件のあらましは下記の通りになる。
昨年9月のスプリント日本選手権開催時、鈴木康大選手がライバルの小松正治選手の飲料が入っているペットボトルに禁止薬物を混入。その結果、カヤックシングル200mで優勝した小松選手はドーピング検査で陽性反応。日本アンチドーピング機構から資格停止8年という非常に重たい処分を受けることになる。この時点で小松選手は身の潔白を主張していたが、今回の事実が明るみになるまで認められなかった。資格処分の解除がなく、8年の資格停止がそのままであったら、2020年東京五輪に出場に一縷(いちる)の望みもなかったのだ。
加えて、今回の事件発覚は当事者だけの問題でなく、大会中にも関わらず、禁止薬物を簡単に混入できたという警備上の問題も再考の余地があることを露呈した。

これは決してカヌー界だけの問題ではない気がする。例えば、自転車競技でも選手のペットボトルはほぼ置きっ放しだ。やろうと思えばカヌー同様に禁止薬物を混入することも可能。こういう不用心な一面は日本人の中にある”仲間を裏切る行為はしない”という性善説的なことからきているのではないだろうか。
また、選手の陰謀でこそなかったが、リオデジャネイロ五輪直前には日本自転車競技連盟(JCF)にサプリメントを提供している梅丹の製品から禁止薬物が見つかったという事例がある。当時、梅丹の社長は記者会見で「もし選手に迷惑をかけたなら切腹する」という旨の発言をしたと記憶している。ただ、梅丹のケースは提供した業者はもちろんだが、提供された製品の成分をキッチリ調査しなかったJCFにも非があるように思える。普通の団体ならば、まず提供されたサプリメントは大丈夫なのか?と、キッチリ業者に尋ねて確認をする。しかし、それが行われず、業者もJCFも日本古来の梅というものに対して、何も疑いを持たなかったのだ。大事には至らなかったが、あまりにも杜撰(ずさん)過ぎた事例であるように思える。

ドーピングに関して言えば、競輪も他人事ではない。毎回ではないが、大きなレースの時にはドーピング検査が行われる。だが、アマチュア競技ではない競輪は仮にドーピング違反が発覚しても、一発では厳罰には至らない。何度か繰り返せば出場資格や選手資格は剥奪(はくだつ)されるが、初犯では厳重注意で済むらしい。らしいというのは関係団体がドーピング検査の結果を公にしていないからだ。もしもG1レースやグランプリで優勝した選手から禁止薬物が検出されたらどうなるのか?いや、普段のレースでも同じだ。レースは既に成立していて、車券の払い戻しも終わっている。だから、公表できないのであろう。公表できずに結果も変わらないのであれば、ドーピング検査をする必然性はあまりないと思うのだが。

競輪場の検車場や控室には、各選手のペットボトルなどが並べられている。並べられているというよりは、誰の物か分からないような感じだ。もちろん、グランプリに出場する選手やタイトルを獲るような選手はちゃんと管理していることが大半。それでも、今回のカヌー事件を考えれば、薬物を混入することなど、さほど難しい状況ではない。それでは、JKAやJCFなどが今回のカヌー事件を見て、何か通達や対処法を出しのたかと言えば、今のところ筆者の耳には何も入ってきていない。日本人が仲間を売る行為をしたこと自体が寝耳に水なのだろうが、もはやその考えは捨てるべきであろう。アスリートとして、人間としてやってはいけないことだが、現実に起こったことである。今後、警備態勢の強化はもちろんだが、ドーピング検査について改めて1度、シッカリ議論する必要があるはずだ。

Text/Norikazu Iwai

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