3年ぶりのツール・ド・熊野!
和歌山県・三重県にまたがる熊野地域を舞台とするステージレース「ツール・ド・熊野」が5月27日に開幕した。UCI(世界自転車競技連合)の認定国際レースだ。新型コロナウィルスの感染拡大を受けた連続の中止を経て、今年、3年ぶりの開催が実現した。今年は、3ステージで構成され、選手たちは、総走行距離322.8kmを駆ける。
ツール・ド・熊野の特徴は、なんと言っても世界遺産に登録された熊野古道を舞台に開催されるということ。例年は4ステージで構成され、もっとも有名なのは、熊野古道を走る最難関の熊野山岳コースだが、冒頭には個人タイムトライアル、続くは丘陵地の周回レース、最終ステージは太地のサーキットを走る周回レース、と、選手たちは、平坦のパワー、上りの強さや、難しいサーキットを駆け抜けるスピードやテクニックと、それぞれの特性を生かせる総合的な構成になっており、景観の美しさと相まって、見どころの多いレースである。
美しい新緑の中を走る人気レース、ツール・ド・熊野
今年の参加は、全18チーム。海外チームの招聘はまだ難しく、日本籍のチームを中心にした構成で競われることになった。
第1ステージは、和歌山県新宮市の赤木川沿いを行き来する16.4kmの周回コースを約7周する「赤木川清流コース」114kmの設定だ。高低差は大きくないが、細かなアップダウンが多く含まれ、道幅の急激な変化も多い。テクニカルなコースであると言えよう。
コーナーや、道幅の急激な変化も多く、気が抜ける箇所がない
ごく狭い林道区間も含まれ、集団は場所に合わせ、形を変えていく
1周目には、900mのニュートラル区間が含まれる。最終周回のみ、フィニッシュへ向かう100mが加えられ、周長が長く設定されている。105名の選手がスタートラインに並んだ。この日の新宮市は晴天に見舞われ、夏を思わせるほどの暑さとなった。この天気は、吉と出るのだろうか、凶と出るのだろうか。
18チーム、105名の選手がスタート
リアルスタート直後から激しいアタックの掛け合いが始まったが、集団に対して先行する動きは生まれなかった。
2周目に設けられた山岳ポイントは中井唯晶(シマノレーシング)が1位通過。それからもアタックと吸収が続くまま中盤戦へと移った。
流れが変わったのは4周目。山本元喜(キナンレーシングチーム)、西尾憲人(那須ブラーゼン)、柴田雅之(ヴィクトワール広島)の3人が先行したのだ。
集団から飛び出した山本元喜(キナンレーシングチーム)、西尾憲人(那須ブラーゼン)、柴田雅之(ヴィクトワール広島)の3人
立て続けに、この先頭3名への合流を狙った動きが発生した。門田祐輔(EFエデュケーション・NIPPOデヴェロップメントチーム)、兒島直樹(チームブリヂストンサイクリング)、山岳賞を狙う動きを見せてきた中井が抜け出し、先頭3人に加わった。
この6人の集団の先行は続き、2回目の山岳ポイントも意欲を見せた中井が1位通過。これで、中井は山岳賞首位を決定づけた。
3名が合流し、先頭は6名に
先頭の6人がメイン集団に対して得られたタイム差は30秒ほど。今年は、この初日ステージの翌日、すぐに超難関ステージである熊野山岳コースが控えている。総合上位を狙うトップ選手らの間に、この山岳コースで大きな差が開くことは少ないという。最終ステージもスプリンター勝負になることが多く、タイム差が付きにくい。総合成績を狙うなら、この第1ステージでのフィニッシュ順位、タイムは非常に重要な意味を持ってくる。リスクを嫌った集団は、先行する6名に大きな差を許すことはなく、射程圏内に留めながら、周回をこなして行った。
だが、この一定の差が詰まることのないまま、レースは終盤戦に突入した。最終周回に入ると、総合を狙いたいマトリックスパワータグや、このステージをスプリントで勝負したいスピードマンチーム、チームブリヂストンサイクリングが集団のペースアップを図る。
マトリックスパワータグ、チームブリヂストンサイクリングが先頭に立ち、メイン集団のペースアップを図る
最終周回前半までタイム差は変わらず、なかなか詰まらないタイム差に、逃げ切りの可能性も匂わせたが、折り返しを越えると、ついにメイン集団は本気のペースアップを図り始めた。先行する選手たちを、フィニッシュ目前に吸収、勝負は大集団でのスプリントにゆだねられた。
ゴールが近づくにつれ、チームブリヂストンサイクリングが圧倒的な存在感で集団の前方を固め始めた。
ゴールへの強い執着を見せ、先頭を固めるチームブリヂストンサイクリング
最終コーナーを回っても、なお、先頭を固めたのはチームブリヂストンサイクリング。リオ五輪にトラックレースの出場経験を持ち、競輪選手としても活動するエーススプリンターの窪木一茂(チームブリヂストンサイクリング)を先頭へと送り出した。窪木は他の選手を突き放したまま、フィニッシュへ悠々と飛び込んだ。
誰も寄せつけることなく、先頭を走りきった窪木一茂(チームブリヂストンサイクリング)
窪木は大会初日の勝者となり、同時に個人総合首位の証であるイエロージャージを獲得することになった。
リーダージャージを着用した窪木と、この大会を作り、ここまで育て上げて来た大会理事長の角口賀敏氏
2位には、この数日前に閉幕したツアー・オブー・ジャパンで個人総合優勝を飾ったネイサン・アール(チーム右京)が、3位には織田聖(EFエデュケーション・NIPPOデヴェロップメントチーム)が食い込んだ。
コース上に設定されるスプリントポイントと、ゴールの着順に従って与えられるフィニッシュポイントの総計で競われるポイント賞も窪木が首位に立った。山岳賞は中井が獲得し、U23の首位のヤングライダー賞には香山飛龍(弱虫ペダルサイクリングチーム)がトップに立ち、それぞれのリーダーの証である各賞ジャージを獲得した。
逃げ集団にも入り、山岳賞ジャージを勝ち取った中井唯晶(シマノレーシング)
ヤングライダー賞を獲得した香山飛龍(弱虫ペダルサイクリングチーム)
チーム総合では愛三工業レーシングチームが1位になっている。窪木はゴール後、逃げ集団にチームメイトの兒島が入ったことで、兒島で勝負できる選択肢も出たため、脚力を貯めることができた、とチームへの感謝を語った。この後のステージについて問われると「総合力の高いチームではあるが、1日1日、優勝を狙って走ろうと話し合っている」とコメント。「明日は厳しいステージなので、今日の夜は、明日に向
けて(身体を休ませ)、明日に向かって組み立てたい」と噛み締めるように話した。
窪木自身、4年間和歌山に住んでいた時期があり、久しぶりのツール・ド・熊野に参加できた喜びは大きかったと言う。「この勝利を和歌山でお世話になった皆さんに捧げたい」と語った。
この日はスプリント勝負になったため、フィニッシュの上位選手間にタイム差は付かなかった。個人総合成績には、フィニッシュ(10,6,4秒)と中間スプリント(3,2,1秒)のそれぞれ上位3名に与えられたボーナスタイムによるタイム差のみが付いている。
第1ステージ終了時点で、25名の選手が、タイムアウトや落車でレースを去り、メンバーが2名のみになってしまったチームも出てしまった。非常にタフな展開だったと言えよう。
次に選手たちを待ち受けているのは、千枚田を駆け上がる超難関山岳ステージ。気温30度を超える夏日の予報も出ており、はたして、どのようなレースが展開されるのか、注目された。
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【結果】ツール・ド・熊野2022 第1ステージ(114.0km)
1位/窪木一茂(チームブリヂストンサイクリング)2時間31分17秒
2位/ネイサン・アール(チーム右京)+0秒
3位/織田聖(EFエデュケーション・NIPPOデヴェロップメントチーム)
4位/畑中勇介(キナンレーシングチーム)
5位/レオネル・キンテロ(マトリックスパワータグ)
【個人総合首位(イエロージャージ)】
1位/窪木一茂(チームブリヂストンサイクリング)2時間31分07秒
2位/ネイサン・アール(チーム右京)+4秒
3位/織田聖(EFエデュケーション・NIPPOデヴェロップメントチーム)+6秒
4位/フランシスコ・マンセボ(マトリックスパワータグ)+7秒
5位/阿部嵩之(宇都宮ブリッツェン)+8秒
【ポイント賞(グリーンジャージ)】
窪木一茂(チームブリヂストンサイクリング)25pts
【山岳賞(レッドジャージ)】
中井唯晶(シマノレーシング)2pts
【ヤングライダー賞(ホワイトジャージ)】
香山飛龍(弱虫ペダルサイクリングチーム)2時間31分17秒
【チーム総合】
愛三工業レーシングチーム 7時間33分51秒
画像:©︎TOUR de KUMANO 2022
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