TOP > 競輪 > 心に残るベストショット Vol.5

競輪

2017/10/25

Junko Shitara

心に残るベストショット Vol.5

心に残るベストショット Vol.5

競輪に携わって35年。
今回は競輪祭の思い出を綴っていきます。

1993年(平成5年)11月25日、まだ小倉競輪場はメディアドーム前の旧競輪場でした。ホーム側の観客席は鈴なりのファンがかぶりつきで選手の姿を見られる、雰囲気バッチリの競輪場だったことは今でも鮮明に覚えています。
男気の街・北九州らしい熱い雰囲気の中での決勝戦、残り1周で先行していたのが神山雄一郎選手(栃木61期)でありました。「神山VS吉岡」の時代が始まったばかりで、しかもこの小倉競輪場を地元とする吉岡稔真さん(福岡65期・引退)がこの年はまだ無冠で競輪祭を迎えていました。加えて、日本選手権優勝で一躍注目の選手になっていた海田和裕さん(三重65期・引退)の機動力も加わって三つ巴の様相に。
レースは位置取りでは定評のある井上茂徳さん(佐賀41期・引退)の捌きで3番手を手に入れた吉岡さん、快調に逃げていた神山さんですが最終2コーナーから吉岡さんの一閃の捲り。
絶妙なタイミングで一気に踏み出した吉岡さんのゴール線は4車身も後続を突き放しての快勝!
見回せば数え切れないくらいの吉岡ファンの横断幕が張られ、やはり、地元のスターへの声援は大きく、寒さを吹き飛ばすかのような声で「よしおか~~〜!強すぎるぞーっ!!」という歓声が響き渡りました。インタビュアーの私はその言葉を頂戴して、優勝インタビューの開口一番は「吉岡さん、強すぎますっ!!」と、始めたのです。
勝因は前日の準決勝で先行していたことと、吉岡さんが振り返るように吉岡、神山、海田の3人が「YKK」と、呼ばれて常にシリーズを積極策でリードしていったことがより数々の大会を面白くしていたと思います。しかもこの時点で獲得賞金1億円を3人とも突破してグランプリシーズンに入っていきました。ですから、今よりも開催も話題もリズミカルで盛り上がりがあった気がします。
付け加えるならば、このレースで先行して負けた神山さんは「負けてなお強しっ!!」の印象を残しました。3番手からサラッと、捲られても力尽きることなく2着に残るのは並大抵ではありません。「神山vs吉岡」の東西横綱時代を象徴するこの一戦、文字では書き尽くせない迫力の名勝負でした。

印象に残る競輪祭の一戦と言えば、1988年(昭和63年)も忘れられません。
車券販売締め切りの合図と共に、空に暗雲立ち込めて雨は雹(ひょう)に変わり、走路に積もり始めてレース開始が危ぶまれる状況にまで急変。しかし、電話投票に場外展開、開催ごとに売り上げが右肩上がりの状況下。また、レースの中止や遅れで、テレビ中継に間に合わないという選択は難しかったのです。
最悪のコンディションの中で号砲一発、レースはスタート。周回中ホームストレッチで必死になって目を凝らしてもバックストレッチを走る選手の姿がかすんで見えにくい。「アレ!?」特に中団を見てみると位置がポコッと、空いて見えます。そこには鬼脚・井上茂徳さんが走っていたのですが、あまりにも暗くて黒の2番車が見えなかったのです。私の横でビデオエンジニアさんが「2番車が動きました」と、教えてくれました。なぜならカメラは肉眼より明るく映せるので、モニターを見ている彼には黒の2番車・井上さんが見えていたのです。
レース後、参加選手は「あの場合、誰かが手を挙げてレース中止を訴えてもおかしくなかったけれども、(積もった雹で)滑りそうで危なくて手が離せなかった」と、気の毒なような……でも、助かったような。
誘導員も退避した際、自ら体を内側に倒し落車で役目を終えました。後でこのことを誘導員に改めて尋ねると、退避の際に雹が積もって轍(わだち)状態の走路でハンドル操作を誤って参加選手に当たることを恐れての判断だったということです。
レースは先行したのが白の1番車・滝澤正光さん(千葉43期・引退・日本競輪学校校長)で、その滝澤さんをピッタリとマークして山口健治さん(東京38期・引退)が優勝。レース後、戻ってきた9選手は雹が直に当たった太ももを真っ赤に腫らしていました。あの状況の中、無事に走り切ってくれた選手には感謝の言葉以外ありませんでした。本当、全員に敢闘賞を贈りたかったものです。

振り返れば私が見た競輪祭30余年、全てが心に残る名勝負であり、記憶に留めることのできる競輪祭の歴史でもありました。

【略歴】

設楽淳子(したらじゅん子)イベント・映像プロデューサー

東京都出身

フリーランスのアナウンサーとして競輪に関わり始めて35年
世界選手権の取材も含めて、
競輪界のあらゆるシーンを見続けて来た
自称「競輪界のお局様」
好きなタイプは「一気の捲り」
でも、職人技の「追い込み」にもしびれる浮気者である
要は競輪とケイリンをキーワードにアンテナ全開!

ページの先頭へ

メニューを開く