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2018/07/13

Sakura Kimihara

恋して競輪ハンター

恋して競輪ハンター

『恋して競輪ハンター』木三原さくら=16 Hunting

7月7日、七夕の日。とうとうこの日がやってきた……待ちに待ったという気持ちではなく、本当にこんな日がくるんだな。私はそんな不思議な感覚を持って奈良競輪場へ向かいました。

日野未来(奈良114期)選手がガールズケイリン選手として遂にデビューを果たしました。
彼女がデビューする前、1度バンクの中を走る姿を想像してみたことがあったのですが、興奮、心配、寂しさなどのあらゆる感情が渦巻いて、単なる想像だというのに涙が出そうになってしまう始末。それ以来、私の中で彼女のデビューのことを考えるのはやめて、この日までを過ごしてきました。冒頭で書いたあの何とも言えない感覚は、そうやって様々な感情を麻痺(まひ)させてきたことが影響していたのではないかと、今になって思います。
彼女が競輪選手を目指すことを決めてからの月日の流れはアッという間でした。見守る側である私の気持ちの整理がつく暇もなく、本当に流れるままに、彼女が突き進むままに、7月7日を迎えてしまった__。これで間違っていないはずです。

デビュー節の初日は朝から雨でしたけれども、彼女のレースの時は傘も必要ないくらい小降りになっていました。選手紹介中、奈良のバンクは場内音声が小さく静かな中、左靴のクリップバンドを締めながら彼女が私の前を通り過ぎていく。ホームを通り過ぎる時にはたくさんの声援が彼女に送られていました。
やめようと思っていました。でも、散々、躊躇(ちゅうちょ)した挙げ句に彼女のデビュー戦は金網の前で観ることにしました。当たり前ですが、彼女は1度もこちらを見向きもしない。そして、発走機についた後ろ姿がシャンとして実に美しかった。
「ついに競輪選手になったんだな、彼女は今から戦うんだな」
そう思ったら、1度、声援を飛ばしただけ。あとは何もできずに、ただ無事に走って、笑顔で帰ってきて欲しいと、祈ることしかできませんでした。
レースは外々を回って苦しい展開からなんとか3着。たくさんの期待と関心を背負い、数多の重圧に耐えながら頑張ったよね。転ぶこともなく、無事に完走。しかも3着、確定板で良かった。と、まずは思いました。そう「まずは」です。時間が経つにつれて「んっ?これでいいのか?」という疑問が私の中でフツフツ湧いてきました。「先行で頑張りたい」って、話していて、このレース内容で納得していいとは思えません。ただ無事に帰ってきてくれたらと思っていたのに、まさかこんな感情が芽生えるとは夢にも思いませんでした。彼女は競輪選手で、私はやっぱり競輪ファンであることを思い知らされた瞬間。彼女と私の世界は明らかに変わったのです。

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