恋して競輪ハンター

『恋して競輪ハンター』木三原さくら＝23 Hunting

今年デビューの113期からまた1人、選手の階段を大きく一歩登った選手がいます。
松井宏佑（神奈川113期）選手。オリンピック強化指定選手のBチームに名前が挙がったり（＊更新後、Aチームへ）、私が日頃からお邪魔させていただいている平塚競輪場がホームバンクの選手です。ということで、その強さ、周りの選手や関係者の好評価、または活躍を期待する声は十分すぎるほど耳にしていました。そんな松井選手がA級2班への特別昇班を決め、A級1・2班戦の初戦を10月27日からの松戸競輪場で迎えました。
A級1・2班戦ということはチャレンジの競走から2人増えて、9車でのレースに変わります。2人増えるだけでレース運びの勝手が変わるということも聞いたりしますが、松井選手は2人増えてもなんのその。初日、2日目と豪快な捲りで快勝し、決勝戦へと駒を進めました。初日は2着選手を6車身、準決勝では4車身引き離しての1着。「強い〜っ！」と、私はその走りに興奮し、拍手しながらキャーキャー言っていたのですが、ファンによっては「まだまだ」という見解もチラホラ。しかし、松井選手は決勝戦も残り1周8番手から前を一気に飲み込み、見事に捲り切っての優勝。前の2段駆けや捲りをもろともせずの圧勝に「やっぱり、強いっ！」と、思わずにはいられませんでした。
こうやって新人選手が勝ち上がってきた時に、必ず競輪ファンの中で評価は分かれます。それがとても面白いと改めて思い、なぜなのか考えてみました。
同じレースを観ていたのに感じるものが違う。それはきっと同じレースを走った残り8選手に対する評価、そして、決まり手や戦法、要するに勝ち方に対するファンの感覚の違いがあるからではないでしょうか。さらには過去のトップ選手たちがどれだけ強さを見せつけて勝ち上がっていったかというところも関係しているのでしょうね。先輩選手たちがルーキー時代に魅せてきた数々の記憶がある訳ですから、様々な評価になるのはごく自然なことなのでしょう。
競輪ファンが100人いて、100人が認める選手というのはひょっとしたらいないのかも知れないですね。だけど、それが何よりも面白く、競輪談義にも花を咲かせるのでしょう。

では、新人選手を追いかけて注目していこう！ということになるかもしれませんが…こんな話しをすると怒られてしまうかも知れませんが……実は私は新人選手に競輪ハンター的に食指を動かさないようにしてきました。なぜなら、新人選手の競走は日々、変化していくからです。
「その走りが大好きっ！」そう思って追いかけてみても、次の開催では全く違う走りをしているなんてことは日常茶飯事。「この子は新人らしからぬ曲者だな」なんて注目していたら、いつの間にかバック回数2桁の立派な先行選手になっていた、なんてことも。デビューして百戦錬磨の選手たちとの中で戦いを積み重ね、それでお金を稼ぐのが競輪選手。迷いや変化は当然のことで、それを悪いとは全く思っていません！ただ、新人選手のその不安定さ、脆さ、時々のハチャメチャさに翻弄（ほんろう）されてしまうと、こっちの恋心もお財布も苦しくなってしまいます。という理由で、ある程度は落ち着いて「俺はこんな競輪選手です！」と、走りで教えてくれるまでは、なんとなく一歩引いた気持ちで観てしまうのです。
だけど、そんな風に思っていてはハンター失格だと今回改めて思いました。新人選手の一走、一走を見逃さずに追いかけて、成長を見守り、応援すること。日々、変わる走りやそこから感じる迷いも全部ひっくるめて楽しむ方が断然面白いですよね。それが間違いなく、これから先の私自身の競輪ライフを豊かにしていくことに繋がるはず。だって競輪の楽しみは選手やレースの記憶を積み重ねていくところにもありますからね。
新人選手と同じように競輪ハンターとしても日々、精進していきたいものであります。

尚、数ヶ月前に編集長から「女性はハンターではなく、ハントレスでしたね……」との指摘を受けましたが、このまま男前に！？ハンターでいこうと思います（笑）。