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2021/07/04

Sakura kimihara

恋して競輪ハンター

恋して競輪ハンター

恋して競輪ハンター 88 Hunting

競輪=人生というフレーズのテレビCMが流れていたのは何年前のことだったでしょうか。今年の6月は改めてその言葉を思い浮かべる1カ月でした。

岸和田競輪で行われた高松宮記念杯競輪では、埼玉の宿口陽一選手がG1初決勝で初優勝。こういうドラマチックな展開は何度見ても、毎回不思議な感覚に陥ります。複数回G1決勝に勝ち上がっても、タイトルに手が届かない選手も当然いる中、初めての決勝で、そのチャンスをものにするという事象は、もはや神秘的とすら言いたくなります。誰もが並々ならぬ努力をして勝ち上がってきた決勝戦。そこでタイトルを獲るためには何が必要なのか、一度考え始めると止まりません。走ったこともないのはもちろん、何かを勝ち取ったこともない私が考えても答えが出ることはないわけですが、ただ一つ、素人でもわかるのは「宿口選手の人生が大き変わった」ということ。年末のグランプリの切符を掴み、来年からはS級S班の赤いレーサーパンツをはきます。ファンの目はより厳しく、期待値は格段に上がるでしょう。その重圧の中でさらなる進化を遂げるのか、これからの宿口選手を追わずにはいられませんね。

そんな風に夢を掴み、人生が大きく変わる選手がいる一方で、選手生命をかけた戦いがあるのも6月でした。そう、期末です。今回の期末は、個人的に苦しいものでした。これまでも思い入れのある選手の代謝というのはありましたが、それは車券的な意味合いの方が強いもの。しかし今期の場合は、過去に自分が取材して声を聴いて、何度も会話をしてきた選手の「勝負駆け」があり、これまでとは違う心のザワつきがありました。しかも、そんな人生を賭けた大一番に投票ができるって……。一ファンとしての立場なら、車券を買うことこそ何よりの応援だと思い、3日間車券を買いました。最低でも準決勝に勝ち上がらないといけない状況なので、ひとまず3連複。2日目は敗者戦でも1着を取れれば、最終日は選抜に乗れるからアタマで……と、代謝回避の条件が車券に影響を及ぼします。
もし勝負駆けに失敗したら__。そんな想像をすると、出走表を見ながら涙が出てくるんですよね。冷静に考えると代謝候補になるくらいだから絶好調とは言えない現状の選手に賭けるということは、かなりリスクがあるものです。でも、これがこの選手の車券を買える最後になるのかもしれない、という思いも生まれて、やっぱり車券を買うしかないのです。しかも身内の気持ちを少し感じてしまった分、同じレースの対戦相手も勝負駆けなら、今度はその選手への思いも湧いてくる。みんなで幸せになれる結果はなんだろう?と「勝負駆け選手-勝負駆け選手-全」なんて車券まで買う始末。もう訳が分かりません(笑)。かといって、二人が代謝を回避したとすれば、別の誰かが代謝で引退になる。もう考え出したら、きりがありません。こんな複雑な感情で車券を買うことは、どんなビッグレースでも味わえないでしょう。

私たちは『誰かの人生に賭けている』。そう改めて感じた、今日この頃。この記事が公開される頃には期が変わり、ルーキーたちが本格デビューを始めているでしょう。涙ながらに去っていった選手のことは記憶の中にしまって、これから始まる若者たちの未来にまた賭ける。競輪ファンの人生もなんとも忙しいものです。

【略歴】

木三原さくら(きみはら・さくら)

1989年3月28日生 岐阜県出身

2013年夏に松戸競輪場で
ニコニコ生放送チャリチャンのアシスタントとして競輪デビュー
以降、松戸競輪や平塚競輪のF1、F2を中心に
競輪を自腹購入しながら学んでいく
番組内では「競輪狂」と、呼ばれることもあるほど競輪にドはまり
好きな選手のタイプは徹底先行
好きな買い方は初手から展開を考えて、1着固定のフォーメーション
“おいしいワイド”を探すことも楽しみにしている

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