TOP > コラム > 佐藤水菜の快挙

コラム

一覧へ戻る

コラム

2021/11/12

Norikazu Iwai

佐藤水菜の快挙

佐藤水菜の快挙

快挙と言っていいだろう。何のことかと言えば、佐藤水菜である。その佐藤が10月24日にフランスのルーベで開催された「2021UCIトラック世界選手権大会」のケイリンで、銀メダルを獲得した。もちろん、女子としては初めてだ。今夏の東京五輪は期待された小林優香が、予選こそ突破したものの、勝ち上がることは叶わなかった。
ガールズケイリン選手でもある佐藤だが、五輪や競技に対する思いは中学生の時からあった。すでに小学生の時には往復20kmを平気な顔をして走っていたそうだ。高校は茅ヶ崎高校に進学したが、自転車部はなく地元の自転車愛好会に所属。伊豆ベロドロームで行われた未来の五輪選手を発掘する大会にもチャレンジしていた。ケイリンデビューは平塚であったが、川崎に移籍して、さらに頭角を現してきた。
負けん気の強さを全面に押し出す競走スタイルは、ファンの共感を得て、力もトップクラスへ。ガールスグランプリに出場するまでに成長した。しかし、心の奥底にあった五輪、競技で世界を目指す気持ちは変わらず、昨年、ナショナルチーム入り。東京五輪には間に合わなかったが、2024年のパリ五輪の有力候補と見られていた。そこで、今回の銀メダル獲得である。普通、五輪直後の世界選手権は「飛車格落ち」と言われるほど、トップクラスの参加が少ないが、今回は異なり、東京五輪のメダリストが揃って参加した。その中での世界2位は驚きでしかなかった。

しかしこれだけの快挙にも拘わらず、メディアの扱いは小さかった。悲しいというか、やはり自転車競技はマイナーなのだと、改めて感じた。仮に東京五輪で脇本雄太なり新田祐大らがメダルを獲っていたら、話は違ったのかもしれない。女子オムニアムで梶原悠未が見事な銀メダルに輝いたが、彼女はアマチュアであり、プロではない。結局のところ、佐藤も競輪選手のイメージが強すぎるからなのだろうか。
業界の広報体制としては、どう考えているのだろう。詳しくは聞いていないが、普通に考えれば快挙を成し遂げた佐藤をそれこそ、民放全局に売り込みスタジオ出演させるくらいのことをはしてほしい。世界で活躍し、呼ばれるのはメジャーな競技である。または、馴染みがなくてもスケートボードのように、中学生がメダルを獲ったりした場合だ。JKAをはじめとする関係団体は、自転車、競輪が国内でメジャー競技という認識なのだろうか。待つのではなく、こちらから売り込みをかけなくてはならない競技だということを、肝に銘じてもらいたい。せっかくの快挙も、色褪せてしまう。佐藤は明るいキャラクターとして知られている。そんな彼女を良い意味での広報活動に使えなければ、いつまで経っても競輪はこのままマイナー競技で終わってしまうのではないだろうか。佐藤の銀メダル獲得という快挙を、どんどん活用するべきであろう。同じことを繰り返しているだけでは、業界の未来は明るくない。

Text/Norikazu Iwai

***************
【岩井範一の過去コラムはこちら】
寛仁親王牌を振り返って
寛仁親王牌の注目選手
PIST6で感じたプラス作用と今後の課題
ニュースター山口拳矢
新しく始まる250競輪
脇本一強時代に突入か
緊急事態宣言の拡大と競輪界
東京五輪とオールスター競輪
コロナ禍の五輪開催
サマーナイトフェスティバルを振り返って
魅力あふれる石井寛子と加瀬加奈子の走り

ページの先頭へ

メニューを開く