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2023/11/29

P-Navi編集部

ジャパンカップクリテリウム2023

ジャパンカップクリテリウム2023

宇都宮市大通り特設コースに5万5000人の観客を集め、ジャパンカップクリテリウムが10月14日、華やかに開催された。
翌15日に開催されるジャパンカップサイクルロードレースは、UCI(世界自転車競技連合)のレースカテゴリーでは、最高位のワールドツアーに次ぐ「プロシリーズ」に認定された、アジア最高位のワンデイロードレース。1990年に宇都宮市で開かれた世界選手権大会のメモリアルレースとして92年に始まったもので、今年は30回目の記念大会として開催された。ツール・ド・フランスなど、世界の最高峰のレースを走る選手たちが来日し臨む、世界の注目を集めるレースである。


ジャパンカップクリテリウムで3連覇を達成したエドワード・トゥーンス(リドル・トレック)photo:Kei Tsuji

ロードレースファンにとっては特別な大会であっても、一般市民層への認知度が高く、一時は継続開催を反対する声も上がっていたという。そこで、2010年にJR宇都宮駅前から伸びる大通りを封鎖し設営するサーキットを使ったクリテリウムレースが、本レースの前日に企画された。間近を走り抜けるトップ選手たちのスピードとレースの迫力が大反響を生み、一般市民の中にも一気に浸透。大会としての魅力度もアップし、3日間の観客動員は10万人を超え、大会の週末は宇都宮近郊にホテルの空き部屋がなくなるほどの人気イベントに成長した。

今では、関連イベントが開催されたり、飲食店で特別メニューを出したり、と宇都宮が一体となり人を招き入れ、盛り上がっていく体制が築き上げられている。まだ新型コロナウイルス感染拡大の影響も残ってはいたものの、昨年度(2022年)の大会の経済効果は約26億3400万円と発表された。サイクルロードレースの開催で、地域振興が進むという可能性を示すことになった。

記念大会である今年、これまでに以上に豪華な顔ぶれの選手が来日し、まずはクリテリウムが開催された。
用いられるのは、宇都宮市大通りを使用する1周2.25kmの直線コース。両端に180度ターンが設定されるシンプルな形状のコースである。最終コーナーを回った後は、ごく緩い傾斜を上ることになるが、ほぼ平坦に近いコース設定だ。レースは、ここを15周回する33.75kmで競われる。スプリント賞が4周、8周、12周に設定され、獲得者は表彰台に上ることができる。


宇都宮市大通りを用いた周回コース。シンプルで高速の展開になるが、選手たちは両端に達するたび、180度ターンのために減速を強いられる(大会公式サイトより)

来日する多くの選手たちは、翌日のロードを想定し選ばれており、上りに強い選手が多いが、トップ選手はゴール勝負をはじめ、万能な選手が多く、クリテリウムでも圧巻の力を見せるケースも多い。

今年の来日選手で最大の話題となったのは、世界選手権ロードを連覇した記録を持つジュリアン・アラフィリップ(スーダル・クイックステップ)。甘いマスクもあり、絶大な人気を誇るトップスターだ。
クリテリウムに関して言えば、昨年までクリテリウム連覇を遂げているエドワード・トゥーンス(トレック・セガフレード)、昨年2位のアクセル・ザングル(コフィディス)も再来日しており、注目が集まっている。


パレードで肩を組んで隊列を作るジュリアン・アラフィリップとスーダル・クイックステップのメンバー photo:Kei Tsuji

この日、交通規制開始後、手早く宇都宮市大通りに設営されたサーキット沿いには、レースを観ようと集まった人々で、何重もの人垣ができていた。
パレードが始まると、ロードバイクにまたがった宇都宮の佐藤栄一市長を先頭に、選手たちがチームごとに次々とコースインして来た。サーキットは割れんばかりの歓声に満ち、選手たちも皆、笑顔で、手を振ったり、ノベルティーを撒いたり、撮影したりと、高揚した様子で、サーキットをパレード走行した。聞けば、これほどの観客を集めて、オーガナイズされたクリテリウムは世界にあまりないそうだ。さらに来日後ここまでの日程で、日本流の温かさで歓待され、熱すぎる声援を浴びた選手たちは、「走りで返そう」と本気になるため「世界最速のクリテリウム」と呼ばれているらしい。

パレードが終わり、スタートラインにつくと、笑顔だった選手の間に緊張感が漂い始める。最前列にスター選手が陣取り、本気の「やる気」をみなぎらせていた。その「やる気」から予期されたように、今年のクリテリウムは、これまでの大会と全く異なる展開となった。
過去の大会の定番の展開は、連覇を続ける「トレック」を冠につけたチームのコントロール下で、日本人を含む逃げが形成され、スプリント賞を狙い、終盤に圧巻の力で集団スプリントに持ち込まれる、というものだった。だが、今年はいきなり1周目からビッグネームがアタックをし始めたのだ。
3連覇を狙うトゥーンスが自ら動き、海外チームから代わる代わるアタックが仕掛けられる。とうとう3周目には、ジュリアン・アラフィリップが飛び出した。ここにツール・ド・スイスで山岳賞に輝いたパスカル・イーンクホールン(ロット・デスティニー)と、世界3大ツールのひとつ、ブエルタ・ア・エスパーニャで、今年一時リーダージャージも着用していたアンドレア・ピッコロ(EFエデュケーション・イージーポスト)も合流。上りを含むレースが主戦場となるトップスターが先行し、観客の前を回り始めたのだ。会場からは興奮のあまり、悲鳴に近い歓声が沸き起こった。


自ら積極的に動いたアラフィリップ。彼が動くたびに、会場からはうねりのような歓声が巻き起こる。レース後「アタックでレースを沸かせたいと思っていた」と語ったという photo:Kei Tsuji

1回目のスプリント賞は、なんとアラフィリップが獲得した。「世界のアラフィリップが、スプリント賞を狙ってくれた」というジャパンカップにとって光栄すぎる事実に会場は沸く。本来、この時期には欧州のロードレースシーズンはほぼ終了しており、海外選手にとってはUCIポイントも付かないクリテリウムを本気で走る必要などないのだ。
そして、2回目のスプリント賞はイーンクホールンが獲得した。


トゥーンスが自ら先頭に立ち、集団を引き上げるリドル・トレック photo:Kei Tsuji

メイン集団をトレックのメンバーが引き上げ、トゥーンスや、同じく世界選手権王者のルイ・コスタ(アンテルマルシェ・サーカス・ワンティ)が、先行メンバーに追いつき、そのまま吸収した。


30周年記念大会の巨大バナーが飾られたビルの前方を集団が駆け抜ける photo:Kei Tsuji

このあともアラフィリップや、日本好きで知られるクライマー、ギヨーム・マルタン(フランス)らがアタックを繰り返す。マルタンは3回目のスプリント賞を獲得した。目の前で繰り広げられるトップスターたちのまるでショーのような展開に、集まった観客たちの熱狂は止まらない。


交通封鎖され、サーキットと化した宇都宮市大通り。この日はおよそ55,000人の観客が集まった photo:Kei Tsuji

最終周回、再度イーンクホールンが飛び出し、愛三工業レーシングチームが隊列を組んでペースアップ、ここで、またもやアラフィリップがチームを引いて上がり、スーダル・クイックステップを先頭に大集団のまま最終局面に突入する。

最初にスプリントを仕掛けたのは、昨年2位のザングル。だが、混戦の集団スプリントの中、単騎ながら、絶妙なラインで上がってきたトゥーンスは異次元の伸びを見せ、悠々と3連覇を意味する3本の指を掲げるガッツポーズで、勝利をもぎ取ったのだった。


「勝ち方」を知る王者のスプリントで3連覇を達成したトゥーンス photo:Kei Tsuji

2位には、まだ研修生としての所属ながら、10月上旬のフランスのビッグレースで勝利し、世界の注目を集めているライリー・シーハン(イスラエル・プレミアテック)が、3位にはザングルが入った。

連覇の経験から「どこで仕掛けるか、どう走るか」をよく知るトゥーンスの、圧巻のゴールスプリントだった。「トレック」チームとしては、4連覇となる。振り返ってみれば、これまでと戦い方を変えて臨んだトレックの変わらぬ勝利だった。


表彰台に立つ勝者トゥーンス、2位のライリー・シーハン(イスラエル・プレミアテック)、3位のアクセル・ザングル(コフィディス) photo:Makoto AYANO

トゥーンスは「最高の気分だよ!3連覇を飾ることができて超嬉しい!」と笑顔。「勝つのはとても難しいことだけれど、チームや日本の皆さんのサポートを受けることができた」と語り、「今回のレースはコントロールする難しさがあり、攻撃的に臨んだ。コースをよく知っていて、どんな風にポジションをとって、どこで仕掛けるかわかっていて、勝つことができた。とても幸せだ」と終始笑顔で語っていた。


スプリント賞の表彰台はビッグネームが占めた。アラフィリップ、パスカル・イーンクホールン(ロット・デスティニー)、ギヨーム・マルタン(フランス)photo:Makoto AYANO

今年のクリテリムは平均時速49.4km/hと、過去最速スピードをマーク。折り返しの減速を考えれば、直線部分は55km/h程度になっていたのではないだろうか。世界のトップスターたちが勝つために、表彰台獲得に向けて、本気でレースを展開する大会にまで成長したことは、名誉なことであり、大会の運営の質の高さ、ファンの熱意が叶えたものと言えるだろう。
この翌日には、いよいよアジア最高峰のワンデイレース、ジャパンカップサイクルロードレースが開催される。天気予報は雨と低温を告げていたが、雨の中、どんなレースが展開されるのだろうか。

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【結果】ジャパンカップクリテリウム2023
1位/エドワード・トゥーンス(リドル・トレック、ベルギー)40:59
2位/ライリー・シーハン(イスラエル・プレミアテック、アメリカ)
3位/アクセル・ザングル(コフィディス、フランス)
4位/ハミッシュ・ビードル(チーム ノボ ノルディスク、ニュージーランド)
5位/ニコロー・ブラッティ(バーレーン・ヴィクトリアス、イタリア)

【スプリント賞】
4周目/ジュリアン・アラフィリップ(スーダル・クイックステップ、フランス)
8周目/パスカル・イーンクホールン(ロット・デスティニー、オランダ)
12周目/ギヨーム・マルタン(コフィディス、フランス)

※( )内の国名は、選手の国籍

画像:©JAPAN CUP CYCLE ROAD RACE 2023

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