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2018/05/10

Yuji Yamada

“帝王”山田裕仁の競輪哲学 Vol.23

“帝王”山田裕仁の競輪哲学 Vol.23

平塚競輪場を舞台にした競輪最高峰のG1レース・日本選手権が5月6日、無事に閉幕しました。決勝戦は近畿勢4車の結束力で、脇本雄太(福井94期)選手の番手から見事に差し込んだ三谷竜生(奈良101期)選手がダービー連覇を決めました。
準決勝での脇本選手の走りは1周のラップ21秒台、上がりも10秒9という先行してのタイムですから超抜エンジン、抜群な仕上がり具合でした。
決勝戦のメンバー構成から……この脇本選手が“普通に先行”できれば、番手の三谷選手との一騎打ちでの優勝争いになる。そう予想するのが本命党の考え方でしょう。この“普通に先行”というのは、脇本選手が特別競輪での優勝が未経験ということが関係してきます。脇本選手自身も今開催のレース内容から今大会は好調で、優勝を強く意識したはずです。しかも日本選手権、ダービー王と呼ばれる選手になる優勝ですから、色々な考えが頭をよぎってもおかしくありません。これによって変な力みが入ってしまい、末の粘りを欠かないか?という心配がありました。それで“普通に先行”できればという言葉を使わせてもらったのです。番手の三谷選手は自力でも勝てる選手ですし、ダービー参加前の開催でも好調をアピールした走り。スンナリ番手を回ることになり、脇本選手を抜くことは可能だと予想するのは当然なことだと思います。

競輪はタイムレースではなく、様々な展開があるために、上がりタイムは参考程度です。私も現役時代、実際、そんなに気にすることはありませんでした。でも、10秒台の上がりタイムで逃げられては、近畿は4車だった訳ですから、後ろ5番手から捲ったとしても……一体、個人タイムで何秒を出さなきゃいけないのか?特に障害物競走とも言われるようなライン競走で、簡単に捲ることはできません。そう考えると、脇本選手が“普通に先行”できれば、番手の三谷選手との優勝争い。前述したように、そう予想するのが本命サイドの考え方の軸になります。
実際のレースでは、脇本選手は飛びつかれるようなことがないように大外をカマシ気味に打鐘からハイペースで先行態勢へ。他ラインや単騎の新田祐大(福島90期)選手を全く寄せつけず、最終的には1〜4着まで近畿ラインで独占する結果に。
昨年のダービー、三谷選手の優勝は近畿勢1人の単騎でした。だけど、自分で動いてレースの流れを作り、好位を確保してから優勝へと繋げました。今年の優勝は対照的に、ラインのおかげという言葉がピッタリな展開での優勝。史上7人目の“ダービー連覇”という偉業を成し遂げた喜びの中で、数多くのことを感じ取り、学んだことだろうと思います。
勝つことによって人はさらに強くなっていきます。それは勝ち方を覚えるからなのか?勝つことで自信がつくのか?ハッキリとした理由は分かりませんが、着実に成長していくことは間違いありません。今回の近畿勢上位独占という結果によって、2018年の後半戦も近畿勢の活躍がますます目立ってくるような気がしてなりません。

今回のダービーを終えて、改めて1年を通して好調を維持するのは難しいことだと痛感。あのスピード競輪の申し子のような高速競輪を得意としている新田選手が未勝利で終わり、各地の記念競輪で圧倒的な強さを誇った平原康多(埼玉87期)選手でさえ今開催では凄みを感じさせるレースはなかったように思えます。

これからの季節は選手たちにとって暑さとの戦いも加わることに。レース内容や結果もさることながら、日頃の練習と体調管理の難しさとも選手たちは向き合って頑張っています。そのことも踏まえて、ファンのみなさんには応援していただきたいものですね。

【略歴】

山田 裕仁

山田 裕仁(やまだ・ゆうじ)

1968年6月18日生 岐阜県大垣市出身
1988年5月に向日町競輪場でプロデビュー
競輪学校の同期で東の横綱・神山雄一郎(栃木61期)、西の横綱・吉岡稔真(福岡65期・引退)らと輪界をリード
“帝王”のニックネームで一時代を築いた
2002、2003年の日本選手権競輪(ダービー)連覇などG1タイトルは6つ
KEIRINグランプリ連覇を含む史上最多タイ3度の優勝など通算優勝110回
通算獲得賞金は19億1,782万5,099円。
2002年に記録した年間最高賞金2億4,434万8,500円はいまだに破られていない
自転車競技でも2001年のワールドカップ第3戦(イタリア)で銀メダルを獲得するなどの実績を残した
2014年5月に引退して、現在は競輪評論家として活躍中
また、競走馬のオーナーとしても知られる

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