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2020/07/07

Yuji Yamada

“帝王”山田裕仁の競輪哲学 Vol.72

“帝王”山田裕仁の競輪哲学 Vol.72

私は6月に誕生日を迎え、52歳になりました。46歳になる2014年の名古屋G1ダービーがラストランでしたので、現役を引退してから6年。時の経つ速さに、驚いているところです。
引退する時は「もう競輪界と関わりを持つことはないだろう」と、思っていましたが、有難いことにスポーツニッポン新聞社さんに競輪解説者として迎え入れていただきました。
また、その後も大垣市が地元・大垣開催の解説に起用して下さるので、心の底から感謝しています。
そして、各地でのイベントをはじめ、解説者としても多くの競輪場に呼んでいただき、好きな競輪(自転車や走ることは好きではありませんが……苦笑)に携わっていられることは大変喜ばしいです。

関係者の方々には心の底から感謝しておりますけれども、その反面で「競輪界に後ろ足で砂をかけるように辞めていった人が今さら何?」と、批判的な意見をする方々もいらっしゃることは事実でありますし、中には「競輪選手として稼がせて貰って、今の生活ができているのだから、それは競輪界のおかげではないのか?少しはお世話になった競輪界に恩返しするつもりはないのか」と、少しばかり怒り口調で物申す方まで。もちろんのこと「この競輪界を盛り上げるために、一緒に頑張っていきましょう!」と、言って下さる方もいるのですが……。

私のことをご理解されていらっしゃらない方もいるようですので、この場をお借りして、現状をお話しさせて下さい。
私はスポニチさんの記事で得た原稿料は元・阪神タイガースの赤星憲広さんのお力をお借りしたうえで『リング・オブ・レッド~赤星憲広の輪を広げる基金~』で、全国の病院や施設へ車椅子の寄付に、経費を差し引いたほぼ全額を充当しています。他にも各地のイベントに呼んでいただいた際、例えば、熊本であれば震災復興や競輪場再開に向けて。各地の被災地や地元・大垣には子育てや福祉に役立てていただけるように寄付しています。その他にも復興などの名目がない地域でのお仕事であっても、会場に足を運んでいただいたお客様への車券プレゼントタイムを設けたりして、頂戴致します出演料全額は競輪の売り上げに協力するため(それが自分の楽しみだとしても)、車券購入で使うようにしています。的中車券の払い戻しがある場合は自分にとってのご褒美としておりますけれども(笑)。また、ご存知の関係者の方もおられると思いますが、スタッフさんたちを夜の食事に招待することもあります。当然、いただいた出演料以上の支払い赤字開催もある訳です。
このPerfecta Naviさんの原稿料だけは自分のお小遣いにさせていただいているので、感謝している次第(笑)。

私には子供が4人いますが、そのうち下の2人はまだ就職しておらず、東京の大学に通っている学生であります。ですから、大垣の仕事分だけは、学費の足しにさせていただき(当然、全く足りません)、大変ありがたく思っています。お子様をお持ちの親御さんはご理解いただけると思いますが、私の子どもは2人とも私立大学で、1人は薬学部に通っており、学費や寮費は高額。そして、もう1人も何がしたいのか、ボイストレーニングに通うなど、養育費はかなりの高額です。「親としては当然だ」と、仰られるかも知れませんが、やっぱり、大変ですよね。

大垣でいただいている仕事はありがたくも私の補助金になっていると、思っています。ですが、頂戴するばかりではなく、大垣の出演者が着用しているポロシャツ全員分を揃えたりすることで少しはお役に立てればと、思ってやっています。
大垣から仕事のオファーをいただけるのは……現役当時、大垣市への高額納税のため苦労したあの時期があったから?または今まで何度も市へ寄付金を出してきた善意の積み重ねがあったからなのか?定かなことは分かりませんが、今の私を助けていただいており、関係者の方々には改めて感謝の言葉しかありません。


写真提供/長谷川満さん

私は飲食店経営に手を出してみたり、不動産賃貸業や馬主業にも手を出したりと、会社組織にして経営者になっています。会社では税理士さんを雇用しているのですが、税理士さんからは「社長、競輪関係の仕事は毎年、赤字になります」とも言われています。私は「競輪で26年もお世話になり、今の私の土台を作ってくれた、競輪界のおかげなのです。これまでも何とか頑張ってきましたが、まだ恩返しが終わったとは思っていません。もう少し、頑張らせて下さい」と、伝えました。

私は現役時代に“まさか”と思うような嫌な思いを何度もしてきましたが、競輪界において選手の立場は相当、弱いものであります。ルールなど、決められたことに全て従い、納得がいかない判定でも審判が失格だと判定すれば失格で、賞金や持ち点も奪われ、格付けの級班まで落ちることさえあります。選手会があっても、選手を個人的に守ってくれることもありません。今の私のような立場になると仕事をいただくために、関係者の顔色を伺った意見が多くなります。私は元選手だけに選手側としての意見も発していきたいと、思っています。現場で走っている選手以外には疎ましい存在だと思いますけれども、みなさん、私の財と気持ちが続く限り、もう少し競輪界に関わり、楽しませていただけませんでしょうか。
“競輪界への恩返し”と、カッコイイ発言をしている方もいますが、自分自身が生活をしていくため、競輪界での仕事をいただいている方もいますよね?生きていくためには仕事をしなくてはならず、その一つの手段にすることは悪いとは言いませんし、当然、悪いことだとも思いません。私は自身が出来ることを精一杯やっているだけなのですから、偏見による批判的な意見で、私へ物申すのは止めていただきたいと、思っています。

7月10日〜12日、いわき平競輪場にて“真夏の夜の祭典”と、呼ばれる『サマーナイトフェスティバル』が開催されます。グレードはG2になっていますが、参加選手はG1級レベルの大会です。先日のG1高松宮記念杯に続いて、東京五輪代表者を中心にハイスピードレースが展開されることでしょう。そして、今開催は早期卒業者・寺崎浩平(福井117期)選手が早くもビッグレース初参戦。今の力で競輪界のトップクラスに通用するのか?現役選手だけではなく、ファンのみなさんにとっても注目していただきたい大会です。
コロナ禍において今年前半の斡旋本数や斡旋状況は明らかな不公平感があります。ですから、選手にとって賞金の高いグレードレースで少しでも賞金を稼ぐのだ!という意気込みで参加してきます。よって見応えあるレースが観戦できることにもつながるはずです。本場へ足を運べないファンのみなさんからも画面越しに、熱い声援を送っていただきたいですね。

【略歴】

山田 裕仁

山田 裕仁(やまだ・ゆうじ)

1968年6月18日生 岐阜県大垣市出身
1988年5月に向日町競輪場でプロデビュー
競輪学校の同期で東の横綱・神山雄一郎(栃木61期)、西の横綱・吉岡稔真(福岡65期・引退)らと輪界をリード
“帝王”のニックネームで一時代を築いた
2002、2003年の日本選手権競輪(ダービー)連覇などG1タイトルは6つ
KEIRINグランプリ連覇を含む史上最多タイ3度の優勝など通算優勝110回
通算獲得賞金は19億1,782万5,099円。
2018年末、三谷竜生(奈良101期)に抜かれるまでは年間獲得最高賞金額=2億4,434万8,500円の記録を持っていた
自転車競技でも2001年のワールドカップ第3戦(イタリア)で銀メダルを獲得するなどの実績を残した
2014年5月に引退して、現在は競輪評論家として活躍中
また、競走馬のオーナーとしても知られる

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