『森泉宏一の実況天国』Vol.105

今年、2月2日に開催されました伊勢崎オートの第11レース。
このレースで高橋貢選手（伊勢崎22期）が1着を飾り、オートレース界の通算最多勝利記録更新となる1,637勝を達成されました。

まさに「前人未到の境地」。
このとてつもない数字を見ることで、高橋選手はもちろん、それまで歴代1位でした小林啓二さん（山陽8期・引退）の偉大さを、再確認することにもなりました。
高橋選手の戦績や偉大さついては、読者の皆さんもご存知なので、今更ながらここで記すこともないのですが（むしろ読者の皆さんの方がページ数オーバーで書き記せるのではないかと）。
ここでは、以前、高橋選手がおっしゃっていて、個人的に記憶に残っているエピソードをひとつご紹介します。

高橋選手といえば、現在は白色のつなぎ（レースの時に着用するもの）ですが、過去のレース映像を見ると、赤色のつなぎをお召しになっていました。
私がオートレース実況を始めた、2017年もまだ赤色でした。
いつだったか、記憶は定かではありませんが、ある日の開催で、いきなり白色のつなぎで出走。
その姿が映し出されると、ネット上がザワついたのを記憶しています。

その翌日、高橋選手に
「白色のつなぎになって、ファンの皆さんが、かなりザワついていましたよ」
と報告。
筆者の言葉に、少しニヤッとされていたようにも見えました。

そして、白色にされた理由ですが、あえて言わないとのこと。
言わない理由を聞いてみると、
「（ファンの皆さんに）いろいろ想像してほしい」
そして、「想像することを楽しんでもらいたい」とも。
「今回のことに限らないけど、全てを明らかになってしまうのって面白くないよね」
「答えが分からない方が面白いこともあるんじゃないかと思うから、敢えて言わないよ」
そんなニュアンスのお話をされていたと記憶しています。

そこで思い出したのは、高橋選手に限らず、世の中の「超一流」と呼ばれる方々というのは、全てがあまり明らかになっていないような気がしました。
そして分からないからこそ、我々は想像することで、楽しめている一面もあるのではないかとも。
最近でいえば、メジャーリーガーの大谷翔平選手。
野球のこと以外については、明らかになっていない、謎な部分が多い。
あれだけの注目選手ですから、プレー以外にも、
「どんな家に住んでいるんだろう？」
「好きなテレビ番組はなんだろう？」
など、大谷選手のことを、より知りたくなる心理が働きます。
特に、プライベートに関しては、多くが謎に包まれている気がします。
ですから、犬が出てきただけで、あれだけにニュースになるのではないでしょうか（あくまで筆者の想像ですが）。

個人的には昔の声優、映画の吹き替えをされている方にも、そんな印象がありました。
吹き替えの方は顔が出ないので、姿が分からず、どのような人が務めているのだろうと、子どもながらに想像するのが楽しかった記憶があります。
実のところ、筆者自身も、理想は全く顔出しをせず、SNSもやらず、正体不明のような喋り屋になりたい、という願望があった時代がありました。

話を戻しますが、高橋選手から前述の話を聞いた時、
「この選手はレースだけでなく、全てにおいて楽しませてくれるエンターテイナーなんだなあ」
と。気持ちが高揚していったことを、今も覚えています。
そして、それは応援してくれているファンのためでもあると。

以前、伊勢崎オートのファン感謝祭において、ポップコーン販売の店頭に立たれていた高橋選手。
ポップコーンを売るだけで盛り上がる選手というのは、高橋選手がダントツではないでしょうか（まず、ファン感に出演が決定した時点で、すでに盛り上がっていますが）。

言葉で表すなら、「神秘性」。

現在、スポーツ界では、引退された方がYouTubeなどで、現役時代の裏話を披露する動画が多く制作されています。
これはこれで面白く、それが視聴数に繋がっているところもあります。
その一方で、高橋選手のような、神秘性を持たせることで、ファンの皆さんが、長きにわたって楽しめるのではないのではないか。そうとも考えることもできます。

謎が解けない方が終わらない。
「名探偵コナン」のように……（全くもって上手く整ってませんね）。

※トップ掲載の写真は、高橋貢選手の歴代最多勝利記録記念グッズ